開幕直前!演出・藤田俊太郎さんが語る、進化し続ける2024年版ミュージカル『VIOLET』
こんにちは!梅田芸術劇場公式note編集部です。
いよいよ4/7(日)に開幕するミュージカル『VIOLET』。
先日第31回読売演劇大賞を受賞され、本作で演出を担当される藤田俊太郎さん。
前回のインタビューでは、2019年ロンドン公演と2020年日本公演に焦点をあててお届けしましたが、今回は第2弾として、進化し続けている2024年版『VIOLET』について、藤田さんに稽古場で直接お伺いしてみました。
インタビューをさせていただいたこの日の稽古は、「歌入り本読み」という、動きは入れずに作品全体を読み通すものでした。
稽古場には、前回のインタビューで紹介したように、舞台道具として様々な形の椅子が並べられていたり、床には回り盆が用意されていました。
『VIOLET』は脚本、音楽、演出それぞれの面で深さがある作品で、前回公演までの『VIOLET』とはまた違った新鮮な気持ちで観ていただけることが分かる記事ですので、ぜひご覧ください!
本作については前回のインタビュー記事でも藤田さんに語っていただいていますので、こちらも併せてご覧ください!👇
①藤田俊太郎さん スペシャルインタビュー前編
~単身渡英・2019年ロンドン公演・ヴァイオレットが旅したアメリカ横断の旅で感じたこと~
②藤田俊太郎さん スペシャルインタビュー後編
~前回2020年コロナ禍の公演と2024年の再演について~
『VIOLET』翻訳・訳詞家のインタビューもご覧ください!
稽古場での様子
――まずは、第31回読売演劇大賞、最優秀演出家賞の受賞、おめでとうございます。受賞されてのお気持ちはいかがでしょうか。
ありがとうございます。贈賞式の壇上でもお話しましたが、『ラビットホール』と『ラグタイム』の全カンパニー関係者、そして2023年には『ラヴ・レターズ』、『Sound Theater 2023』、『ヴィクトリア』、『東京ローズ』といった作品も演出しましたので、それらの全カンパニー関係者と、これまでご一緒した作品の全ての関係者に感謝しております。
またこの受賞が少しでも多くの方々に演劇・ミュージカルをお届けできる可能性を与えてくださったのではないかなと思います。より一層気を引き締めて頑張らなければと思います。
――そして2024年の『VIOLET』に繋がっていくことになりますが、稽古が始まって2週間、ここまでの稽古の様子やご感想をお聞かせください。
まずミュージカルを作る際には、歌稽古期間と、立ち稽古を含むいわゆる稽古という期間がありまして、この『VIOLET』カンパニーも2週間ほど歌だけを稽古して、その後立ち稽古をスタートさせたところです。
2024年版のカンパニーの皆さんは、心を開いた快活な明るい方が多いです。この作品の最後の曲である「♪Bring Me to Light(光を見せて)」という曲に、「あなたに心を開いて私の中の冷たい闇を見せたら」というような歌詞が出てくるように。
特にキャストの皆さんは、この稽古場にたくさんのものを与えてくださる、与えようとされる気持ちが大きいので、とても楽しく稽古をしています。クリエイティブに2024年版『VIOLET』を一緒に作っているなと実感しています。
――読み合わせ後に、セリフや歌詞の一つ一つの単語・言葉に対して、いろんな方が「こういう解釈もあるのではないか」と自発的に発言したり、質問したりしていたのが、印象的でした。
そうですね、“風通しの良い稽古場”だと思います。ヤング・ヴァイオレット(子役)からも質問が出ていましたし。みんなで話し合う時間はとても大事だと思っています。
今日の歌入りの読み合わせは、まず一度みんなでこの作品を共有する時間だったと思います。歌も時には台詞で読んでみたりしました。こういう中で、みんなでいろんな意見を対等に話すことが大切ではないかと思っています。
進化し続ける2024年度版『VIOLET』
――前回のインタビューで、主演の三浦透子さんと屋比久知奈さんのお2人について、それぞれ独自のヴァイオレット像を作りたい、とお話されていたと思います。現在どのように作ろうとされているのでしょうか。
まだ立ち稽古が始まった段階なので、現時点で言葉にするのは難しく、稽古が最終シーンまで行ったときに、きっと明確な言葉でお伝えすることができると思います。
作品の台本は同じですが、お2人のヴァイオレットがどのような気持ちをたどって伝道師に出会おうとしたのか、そして最後のシーンへと向かうのか、その解釈や捉え方は全く異なります。
演出家として渡す言葉は同じでも、その解釈や、役に肉付けしたり膨らませていったりする方法も異なります。
稽古を一緒にやる時間と稽古を分けている時間を共存して、行ったり来たりしながら作っているというのは、非常に恵まれた豊かな時間です。
――現段階では、前回の翻訳も一部言葉を変えているとお伺いしたのですが。
そもそも前回までの公演の際にも、翻訳・訳詞を担当された芝田未希さんの中には言葉の候補がたくさんあって、その時台本には入らなかった言葉もたくさんあるわけです。
この2024年4月公演に向けた稽古の中で、台詞や歌詞を元々の英語版台本と照らし合わせながら、ニュアンスや言い方を変えるというよりも、一つの歌詞、フレーズ、接続語などの全てを見直している、という感覚だと思います。
翻訳の言葉も、歌詞も、前回の公演では選ばなかったものがあるなかで、キャストの皆さんとともに「もっとこうした方が良いのでは」と話していて、フレキシブルにいろんなことを試しています。
――何か新たな気づきがあって変えた、というよりは。
両方ですね。新たな気づきがあって変えることもあるし、元々候補として挙がっていたものを採用する場合もあるという。
――新たな気づきというと、例えばどういったところで感じられたのでしょうか。
単純に、今が2024年である、ということではないでしょうか。
やはり、2020年に上演する際に見た1964年と、2024年に見る1964年では、同じものもあるし、違うものもある。この4年でアメリカの歴史も変わりましたし。
この作品は1964年という時代を題材にした上で、不慮の事故の傷を治したいという自分の意思を持って生きたヴァイオレットという人物を描いています。
それには1964年当時を再現するというよりは、
今私達が生きる2024年に作品を作る時に、どういう言葉が一番響くのだろうかと、常にその時代の普遍性を追い求めていくことが大事ではないかと思います。
――前回のインタビューでも、再演で新たな気持ちになるというよりは、ずっと旅が続いていて、2024年には2024年の『VIOLET』の旅があるとお話されていたので、作る時代に合わせて作品に向き合っていらっしゃるのですね。
2019年・2020年とはキャストもスタッフも違いますし、一緒に作る方が変われば作品もどんどん変わるし、それは当然のことではないかと思いますね。
――演出や美術においても、前回の公演から何か変化があるのでしょうか。
そもそも同じものはないです。美術の面では、2019年のロンドン公演、2020年、そして2024年日本公演では、“お客様と一緒に旅をしたい”というコンセプトは同じですが、客席の設えが違えば、アプローチも変わってきます。
まず2019年ロンドン公演は、チャリングクロス劇場でお客様同士が向き合った対面式の客席の形で上演しました。
そして前回2020年の日本公演はコロナ禍で、用意していた舞台上のシートにお客様が座ることは叶わなかったので、プロセニアム形式の(額縁舞台で、観客席と舞台が区切られている一般的な)舞台の仕様にしました。
今回はオンステージシートにより、舞台上にお客様にもバスの乗客として乗っていただいて、文字通りお客様と一緒に休憩なしの2時間の上演時間に、一緒に旅をしていただきます。
3回ともコンセプトは同じですが、劇場のサイズ等が違えば、当然演出のアプローチも言葉の捉え方も異なりますので、毎回変えようと思って、というよりも、必然的に変わっていくのではないかなと思います。
だから前回までの2019年や2020年公演をご覧になっているお客様も、また全然違う気持ちで楽しんでいただけるのではないかと思います。
――2019年・2020年公演を観た方も、今回の公演で前回とはまた違った2024年の『VIOLET』の旅を体験することができるのですね。
そうですね。演劇やミュージカルはどの作品においても、演出や作り手のコンセプトが変わらずとも、時代が変われば、伝えるメッセージの重さが全く変わってくると思います。
この作品は、1人の女性の物語でありながら、“お客様とも一緒に旅をしていく”。そして差別やいわゆる分断などに対して、どうやって他者と理解し合いながら生きていくのかと。
その中で起こることが、時々”奇跡”と表現されていて、非常にポジティブな言葉がこの作品には溢れています。
ヴァイオレットは傷が治ることを求めていますが、様々な人との出会いを通して彼女自身が奇跡を起こして前に進んでいく、というのがこのミュージカルであって、微かな光や希望かもしれないですけど、奇跡を巡る物語でもあると思います。
稽古場でキャストや関係者の皆さんへの所信表明でお伝えした通り、2019年・2020年公演も奇跡でしたが、
2024年公演もこれだけのメンバーが集まって一緒に稽古して、新しい価値観を作っているということ自体、奇跡だと思います。楽しみながら進めていきたいなと思っています。
開幕に向けて
――いよいよ開幕ということで、改めて意気込みなどあれば教えてください。
観客の皆様それぞれの、色んな感情を呼び起こすミュージカルだと思うのです。
まず“一人の女性がどうやって生きるのか”というとても普遍的なメッセージを持っていること。
音楽は、様々なアメリカのルーツ音楽をもった非常に豊かな曲がたくさんあるのですが、同時に現代的でもあるといいますか、1960年代にはない音階も入っているような、仕掛けが随所にたくさんあります。
作品全体が素敵な音楽で、素敵だな、楽しいなと思えるシーンに溢れているんですよね。
あとラストシーンで、ヴァイオレットは自身の傷が消えたと思って終わるのですが、実際顔の傷は残っているし、このまま残り続けるかもしれない。
ただ心の傷は消えたのか、もしくは心の傷も残り続けるのだろうかとか、その解釈はお客様によって全く違うだろうと思います。
この作品では顔の傷というのがメタファー(隠喩)になっていますが、“傷”という言葉だけでもものすごく想像力を想起させます。
ラストシーンは様々な解釈ができることで、未完成というと言い過ぎかもしれませんが、お客様の想像力に委ね、完成していただく作品だとも思います。
人生の傷は簡単になくなることはできないかもしれないけど、その傷も旅や人生の一部だと思って進んでいく、というポジティブなパワーがありますので、お客様お1人お1人が自分の物語だと思って、楽しんでいただけると思います。
――今日、歌入り本読みを改めて聞いていて、“奇跡”や“希望”といった言葉が入っているだけでなく、曲も明るい調の曲が多いなと感じました。
人生は多面的ですから、心の中は変わる可能性がありますよね。
辛い人生だと思い込んでいたとしても、心の中がハッピーになったり、かすかな希望を持ったりできる可能性があると思います。
――やっぱり『VIOLET』は、脚本、演出、音楽など、それぞれの面で知れば知るほど、深さがあると感じます。1回観ただけでは解釈しきれないと思うので、何度か観劇して、やっと作品の本質や深さを理解できると改めて思いました。
そうですね。もちろん1回目も楽しんでいただけると思いますが、2回目以降改めて観ると違った魅力になる。そういう作品でありたいと思います。
今回2人のヴァイオレットが、稽古の過程を山に例えるなら、少なくとも今登っている山は、同じ山でも登り方は全然違っていて、非常に個性的で異なる2人のヴァイオレットが誕生しているので、ぜひその深みに皆さんにハマっていただけたらと。
――本当に深みにハマれる作品だと思います。
このとても素敵な作品を多くのお客様にぜひ観ていただきたいです。
東京公演ではU-25チケットがあるということですが、なんとヴァイオレットの年齢は25歳なんですよね。
次世代の方にもこんなに良いミュージカルがあるのだと知っていただきたいので、若い演劇人やクリエイターや、少しでも舞台に興味ある方にU-25チケットを購入して観ていただけたら本当に嬉しいですね。
——主人公が25歳と言われると、確かに“自分ごと“化できる気がします。若い人にとっては等身大の自分として、より大人の方には当時の自分を思い出しながら作品に触れることが出来そうですね。
ヴァイオレットはアメリカ南部出身の白人女性ですが、遠い存在であるとは思えないと思います。
2024年にも1964年と同じような価値観だったり、もしくは同じような差別をしていたり、もっとひどい分断が起こっていると思います。
異なる国の、異なる年代、人種の話ではないと感じていただけると思います。
フリックが歌う「♪Let It Sing(歌え)」の中に「閉じこもったまま世界見ずに嘆くだけか」とまだまだ世界を変えていきたいといった意図の言葉がありますが、世界は何も変わっていないのではないか、などと我々も考えて問い続けたいですね。
藤田俊太郎さんのインタビュー稽古場編、いかがでしたか?
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